フマル酸と PML
2013年4月25日の New England Journal of Medicine (NEJM) 誌に多発性硬化症の新規治療薬 BC-12 (フマル酸ジメチル) について懸念すべき 2例が報告されました。いずれもフマル酸内服中に進行性多巣性白質脳症 (progressive multifocal encephalopathy; PML) を発症しています。
PML in a Patient Treated with Fumaric Acid
74歳の女性が、乾癬治療のためフマル酸 (dimethyl fumarate <120 mg, monoethyl fumarate <95 mg) を 2007~2010年まで内服しました。2010年7月に感覚性失語が出現し、脳生検が行われました。髄液及び脳組織両者で JC-virus PCRが陽性でした。採血では grade 3のリンパ球減少がありました。骨髄穿刺では骨髄異形成症候群など血液疾患を疑わせる所見はありませんでした。2010年8月にフマル酸を中止し、mefloquineと mirtazapineが開始されました。免疫再構築症候群 (immune reconstitution inflammatory syndrome; IRIS) による一時的な臨床所見の悪化があり、methylprednisolone 500 mg 5日間を投与しました。状態は改善し、髄液及び血清 JC-virusは陰転化したものの、感覚性失語は残存しました。
PML in a Patient Treated with Dimethyl Fumarate from a Compounding Pharmacy
2012年5月に 42歳の女性が、進行性の右片麻痺を発症しました。患者は 9月に多発性硬化症を疑われ、ステロイドパルス療法を受けましたが、効果はありませんでした (その後、論文著者を second opinionとして受診)。彼女には乾癬の既往があり、2007年から Psorinovo 420 mg (腸溶剤徐放錠, dimethyl fumarateと グルコン酸銅を含有) を投与されていました頭部 MRI所見は PMLを示唆するもので、髄液 JC-virus陽性でした。採血ではリンパ球 200/ul とリンパ球減少がありました。血清学的に HIV陰性でした。PMLと診断し、Psorinovoの内服を中止し、mefloquineと mirtazapineで治療が行われました。免疫再構築症候群による増悪があり、 methylprednisoloneの静脈内投与を行いました。2013年1月31日には回復の兆しがみられました。
これら 2例はいずれもリンパ球減少症を伴っていたというのが重要かもしれません。IgG値などについては記載がありませんでした。製薬会社からのコメントがあります。
Manufacturer’s Response to Case Reports of PML
1例目の Fumaderm (Biogen Idec) には 4種類の成分があります (dimethyl fumarate and three monoethyl fumarates (calcium, magnesium, and zinc salts))。2例目の Psorinovo (Mierlo-Hout) はdimethyl fumarateの他に、copper monoethyl fumaric acidのような別の含有物があるかもしれません。
一方で、BG-12には成分として dimethyl fumarateしか含まれていません。フマル酸の成分によって異なった性質を持つことや、使用された状況などが PML発症に関与した可能性があります。BG-12の臨床試験では 2600人以上の患者を最長4年間まで観察しましたが、PML発症はありませんでした。
これまで得られた知見として、フマル酸を内服していてリンパ球の高度減少があると PML発症のリスクと言えそうです。内服を開始してから数年間安全に使用できたとしても、採血など、定期的なモニタリングは継続すべきですね。また一般論として、薬についての情報が増えるまでは、新薬は安易に使うべきではないという格言を思い出す必要があると思います。
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