ALS trio
筋萎縮性側索硬化症 (ALS) で話題になっていた論文を医局の抄読会で読みました。
Exome sequencing to identify de novo mutations in sporadic ALS trios
Nature Neuroscience (2013) doi:10.1038/nn.3412
Received 05 March 2013 Accepted 01 May 2013 Published online 26 May 2013Chesi A, Staahl BT, Jovičić A, Couthouis J, Fasolino M, Raphael AR, Yamazaki T, Elias L, Polak M, Kelly C, Williams KL, Fifita JA, Maragakis NJ, Nicholson GA,King OD, Reed R, Crabtree GR, Blair IP, Glass JD, Gitler AD.Source
Department of Genetics, Stanford University School of Medicine, Stanford, California, USA.
Abstract
Amyotrophic lateral sclerosis (ALS) is a devastating neurodegenerative disease whose causes are still poorly understood. To identify additional genetic risk factors, we assessed the role of de novo mutations in ALS by sequencing the exomes of 47 ALS patients and both of their unaffected parents (n = 141 exomes). We found that amino acid-altering de novo mutations were enriched in genes encoding chromatin regulators, including the neuronal chromatin remodeling complex (nBAF) component SS18L1 (also known as CREST). CREST mutations inhibited activity-dependent neurite outgrowth in primary neurons, and CREST associated with the ALS protein FUS. These findings expand our understanding of the ALS genetic landscape and provide a resource for future studies into the pathogenic mechanisms contributing to sporadic ALS.
まず抄読会での配布資料 (PDF file) を下にアップします。
抄読会 ALS
内容を簡単に要約すると、「孤発性 ALSで de novo mutationを起こした遺伝子を調べるため、47 人の患者とその健常な両親の遺伝子解析をした結果、SS18L1 (CREST) を同定した。CRESTは、FUSとも関係がありそうだ」ということになります。Figure 2dの免沈の結果の解釈など、少し理解が難しいところはありますが、大筋としては納得できる内容でした。
今回の解析では、SRCAPにも de novo mutationがみられました。SRCAPも CREST同様 CBP-interaction transcriptional co-activatorであり、考察では ALSにおけるヒストンアセチル化蛋白 CBPを介した転写制御の重要性が指摘されています。実際、FUSも CBPを介して転写制御を行なっているそうです。
ちなみに FUSは BAF複合体 (CRESTはこの複合体を形成するサブユニットの一つ) の表面と結合していることが推測されていますが、BAF複合体 15のサブユニットのうち、8つの変異で Coffin-Sirisという先天性奇形 (発達障害、精神発達遅滞、小脳症、coarse facial features、てんかん、形態異常) が起こるそうです。
著者らは、今回のようなアプローチ法 (「健常な両親と病気の子供の組み合わせ=trio」 を解析することで、de novoの変異を探す方法) がパーキンソン病やアルツハイマー病でも応用出来るのでないかとしています。
最後に、本研究で私が特に興味深かった点を列挙しておきます。
①ALSの原因として今回見つかった遺伝子 CRESTが転写制御に関与していること
ALS原因遺伝子の多くが RNA代謝に関与していることが知られています。そのため、ALS研究のなかで現在最もアツく研究されている領域の一つが RNA代謝で、「RNA代謝」という概念には転写制御が含まれます。今回転写制御に関する遺伝子 CRESTが同定され、さらに別の ALS原因遺伝子 (※RNA代謝に関係することが知られている) である FUSと関係しているというのは、重要な意義があると思います。
②CRESTが prion-like domainを有すること
ALSの原因遺伝子のいくつかが prion-like domainを持ち、プリオンのように凝集しやすいことが指摘されています。どうやら CRESTも prion-like domainを持つようです。逆に考えると、prion-like domainを持つ遺伝子を網羅的に解析すれば、ALSを含む変性疾患の原因遺伝子がたくさん同定できるのかもしれない・・・という妄想が湧いてきます。
③trioを解析するという手法
著者らが指摘しているように、原因不明の様々な疾患で、この手法が応用できる可能性があります。
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(参考)