先輩の話
電気生理専門の I先生と最近飲む機会が多いです。I先生とは、お互いに音楽が好きで、話が合うのです。
I先生は、ベートーヴェンの「田園」が好きなのだとか。その理由を語ってくれました。
俺は喘息持ちだったんです。でも、俺の実家は、東北で、昔は病院なんて夜はかかれなかったんです。夜発作を起こすと、朝病院が開くまで待つしかなかった。
お袋が、辛いのを紛らわすために、発作中いつも田園のレコードをかけていてくれました。俺はその田園を聴きながら、朝を待っていたんです。
東北は今も医者がいない。だから、東北地方に戻って、医者をやりたい。故郷に恩返しがしたいんです。
深刻な事情に、聞いていて胸が痛くなりました。
しかし、「東北で医者をやるのは辞めた方が良い。先生が専門の電気生理なんてやる機会ないよ。一般の内科疾患の診療に追われて、こき使われるだけこき使われて捨てられるだけだよ。」
と、止めました。彼の崇高な志はわかるのですが、状況が悪すぎます。専門分野に専念出来る環境を与えれば、素晴らしい業績を残すことが出来るでしょうが、野戦病院では才能を埋もれさせてしまいます。
現在も、東北の医師不足は深刻です。しかし、埼玉では言うに及ばず、東京でも医療崩壊が始まっています。I先生は、都内の病院で、白紙の小切手を渡され、勧誘されたことがあるそうです。既に医師不足に陥り、そのような方法で医師を勧誘していたのは、○○区、△△区・・・。次の医療崩壊が危ぶまれる地域なのかもしれません。