タンパク質の一生
「タンパク質の一生 集中マスター 細胞における成熟・輸送・品質管理 (遠藤斗志也、森和俊、田口英樹編集、羊土社)」を読み終えました。
本書は、ここ数年間の Nature, Sciense, Cellといった有名雑誌を元に書かれており、最新の知識に触れることが出来ます。タンパク質が誕生して、成熟し、分解されるまでの生涯を主に扱っています。内容が高度なので、簡単な入門書を読んでからの方が理解しやすいかもしれません。
Anfinsenのドグマとして知られている「アミノ酸配列さえ決まればタンパク質の立体構造が決定する」→「タンパク質の立体構造形成(フォールディング)は他からのエネルギーを必要としない」という原則が、ここ数年で揺らいできていることが示されています。
それは、「変性していることが普通の機能性タンパク質」という項で、「原核生物のゲノムにコードされているタンパク質の30%はNUP (Natively unfolded protein)」であることとして一つは記載されています。プロテアーゼ消化を受けやすいためにタンパク質量をコントロールしやすいメリットがあるそうです。
更に、アミロイドやプリオンといった非常に安定した凝集蛋白や、molten globule (二次構造とコンパクトさは天然構造に近く、三次構造は崩れた中間的状態) といった発見も、Anfinsenのドグマを揺らがせる存在であるようです。
こういした分野は、日進月歩で、我々が10年少し前にならった知識は既に古いものとなってしまっています。
神経内科に直接関係あることも紹介されていました。こうした研究は、一般にあまり世の中で評価されていませんが、病気の本質に関わる大切なものです。現在、多くの変性疾患は、治療の選択肢が乏しいものですが、こうした研究は、根本的な治療につながる可能性があります。
①アミロイドーシス
アミロイド病として、アルツハイマー病、ハンチントン舞踏病、パーキンソン病、筋萎縮性側索硬化症、透析アミロイドーシスなどが知られています。
しかし、病気に関与しないタンパク質でもアミロイド様線維を形成することから、アミロイド線維自体が悪ではなく、多量体 (オリゴマー) レベルが犯人ではないかという意見が広がっているそうです。
また、サイトゾルのシャペロニン (タンパク質のfoldingを助けたり、品質管理に関わる。多くは熱ストレスで誘導されるHeat shock protein。) の一つCCT/TriCがポリグルタミン (polyQ) タンパク質の凝集を防ぐことが知られ、オリゴマー形成の阻止が神経細胞死を防ぐと報告されています。
②ユビキチン化
ユビキチン-プロテアソーム系 (UPS) の異常は、神経変性疾患ではTopicsとなっています。本書では、UPSの制御についてのシャペロンの役割が記されています。その前景となる知識は、一般的に知っておいて良いと思うので、引用させて頂きます。
本来、不要なタンパク質は、E1-E2-E3 (-E4) というユビキチン化酵素群によるカスケード反応を介してポリユビキチン化され、それが目印となって分解酵素複合体のプロテアソームに受け渡され、細胞内から消去される。
しかし神経変性疾患では、ユビキチン化された不溶性タンパク質凝集体、すなわちパーキンソン病におけるレビー小体、アルツハイマー病における神経原線維変化、ポリグルタミン病(ハンチントン病、マシャド・ジョセフ病など)やALS (筋萎縮性側索硬化症) における細胞内封入体などが認められる。またそれらの責任分子として、UPSのE3酵素であるParkinやE4酵素であるUFD2a, CHIPや脱ユビキチン酵素であるUCH-L1などが同定されている。
これらの知見から、UPSが正常に機能すれば、異常タンパク質は細胞内から除去され、神経変性には至らないことが予想されている。
③膜タンパク質の加水分解
膜タンパク質の分解には水が必要ですが、膜タンパク質は脂質に富み、疎水性の性格を持ちます。そこで加水分解するためには、膜タンパク質を膜外の水溶性環境に引き出すことですが、膜内部で分解する機構 (RIP; regulated intramembrane proteolysis) もあるそうです。そのRIPは、アルツハイマー病の原因タンパク質と目されるアミロイドβペプチドの生成などにも関与しているそうです。