ISABELLE FAUST
2013年10月29日、フィリアホールでイザベル・ファウストの演奏を聴いてきました。”JUST ONE WORLD SERIES (ただ一つの世界)” と銘打たれた企画の一つで、全て無伴奏ヴァイオリン曲です。私がファウストの演奏を聴くのは、2000年10月7日にサントリーホールでバッハの無伴奏パルティータ第2&3番、バルトークの無伴奏ヴァイオリンソナタを聴いて以来です。フィリアホールは狭いホールで、まさに無伴奏曲を聴くにはうってつけでした。
(余談ですが、コンサート開始前に飲んだ、ハチミツを発酵させたハニーワインも美味しかったです。Wikipediaで見ると、ハネムーンは、ハニーワインが語源なんですね)
ISABELLE FAUST VIOLIN
J.S.バッハ 無伴奏ヴァイオリンのためのパルティータ第3番
ヤニス・クセナキス ミッカ (1972)
J.S.バッハ 無伴奏ヴァイオリンのためのソナタ第3番
シャチント・シェルシ 開かれた魂 (1973)
J.S.バッハ 無伴奏ヴァイオリンのためのパルティータ第2番
2013.10.29 (火) 19:00
(インタビュー)
一曲目のパルティータ第3番は、それが舞曲であることが強く伝わってきました。音の一つ一つに意図がはっきりしていたし、繰り返しの部分では弾き方をガラリと変えるなど、配慮が行き届いていました。素晴らしい演奏で、一気に引きこまれました。ボウイングや、装飾の付け方を見ると、古楽器での演奏をかなり意識していることがわかりました。
三曲目のソナタ第3番は、一転して重厚な演奏。舞曲であるパルティータとの対比が際立っていました。第2楽章フーガの主題を呈示する最も大事な部分で、近くの聴衆が音を立てて現実に引き戻された時以外は、世俗的なことから完全に離れて楽しむことができました。第3楽章は Largoで、私が失恋直後に好んで弾いていた曲です (^^; 私は感情を込めてベッタリと演奏していたのですが、ヴァイオリンの師から「重い」と言われました。前の楽章フーガは、バッハの3つの無伴奏ヴァイオリンソナタのなかでも最も長大なものです。そのため、Largoはフーガの余韻の中で演奏されることが意識されなければいけません。壮大な曲の後に胃もたれを起こすような演奏ではいけないのです。ファウストの演奏は、フーガの余韻を楽しませてくれるものでした。
・Isabelle Faust Plays Bach’s Sonata No. 3 in C Major, BWV 1005, Largo
コンサート後半ではパルティータ第2番が演奏されました。第1楽章はかなりゆっくりとしたテンポ。私自身が演奏するよりもかなりテンポが遅かったことについて、コンサート中にはファウストの意図がわからなかったのですが、後日、増田良介氏が書いたファウストの CDのライナーノーツを見て、その理由がわかりました。
この曲が、緩-急-緩-急-緩という対称的な構成を持つ楽曲であったことを、ファウストの演奏は思い出させてくれる。
パルティータ第2番の最終楽章のシャコンヌはあまりにも有名です。素晴らしい出来栄えで、ファウスト自身も満足だったのか、演奏後に会心の表情を浮かべていました。
ここまでバッハの感想ばかりを書きましたが、「ミッカ」「開かれた魂」も完璧な演奏でした。どちらもグリッサンドが多用された曲で、音の周波数変化と独特の音色が印象的でした。10月にブリュッセルで作曲家の酒井健治氏と飲んだ時に、「最近の現代音楽ではグリッサンドという技法がかなり高く評価されている」と聞いたのを思い出しました。
アンコールはバッハの無伴奏ヴァイオリンソナタの第1番の第1楽章と第3楽章。どちらも素晴らしかったのですが、第1楽章の最初の方では音を外したのかと思ってドキッとしました。ミの音にフラットを付け忘れたように聞こえたのです。帰宅してファウストの CDで確認すると、やはりミの音にフラットをつけていません (下図赤丸部分)。何かファウストなりの意図があるのでしょう。よくわかりませんが、ひょっとすると、バッハ以前の時代にしばしば用いられた旋法の影響を解釈に加えた結果なのかもしれません (この曲は綺麗な自筆譜が残っているので、楽譜の版が違うとは考えにくい)。
(※楽譜は IMSLPより加工。http://imslp.org/wiki/6_Violin_Sonatas_and_Partitas,_BWV_1001-1006_(Bach,_Johann_Sebastian))
最後に、コンサートホールで購入したファウストの CDを紹介しておきます。全て聴きましたが、どれも御薦めです。
J.S.バッハ: 無伴奏ソナタ&パルティータ集 VOL.2 (J.S.Bach : Sonatas & Partitas BWV 1001-1003 / Isabelle Faust)
ベートーヴェン: ヴァイオリン・ソナタ集(全曲) (Beethoven: Complete Sonatas for Piano & Violin) (4CD)
初めまして。
ミは自筆譜がそうなっているからですが、音楽的に考えて、バッハがフラットを付け忘れたことは間違いありません。
この曲はト短調ですが、調号はフラットが一つだけの昔の書き方になっています。ちょうどこの頃が現在のフラット2つの書き方との過渡期にあったようで、バッハ自信混乱していてしばしば臨時記号を忘れたようです。これは無伴奏チェロ組曲においても同様で、チェリストを悩ませます。
こちらの記事などもご参考に。
http://estparis.blog108.fc2.com/blog-entry-83.html
初めまして。
Bachの「ヴァイオリンとチェンバロのためのソナタ BWV 1014~1019」で、旋法の影響を受けた音階をいくつか見かけたので、この時代にはまだ旋法の名残があり、そのせいかと思っていました。こんな有名な曲でも、単純な付け忘れってあるんですね。この曲集のそうした逸話を纏めた本などあると読んでみたいと思いました。
ブログ拝見させて頂きました。勉強になりました。