第55回日本神経学会学術大会
第55回日本神経学会学術大会から戻ってきました。
5月21日 (水)
岩田誠先生の御講演「それは祈りから始まった」を聴きました。以前聴いた「音楽と脳-音楽って何」「描画の神経学」を融合したような内容の、素晴らしい講演でした。新人類以降、解剖学的な制約から開放されて、母音をいくつも含む言葉を喋るようになってから、ヒトは知能モジュールを連結させるようになっていったそうです。言語の発達と描画の発達は個体レベルでみると時期が一致するらしいですが、ヒトの進化の歴史にも同じことが言えるようです。最終的に、集団としての祈りのなかで芸術は生まれたとする岩田先生の説でした。感動しました。
続いて、「音楽療法:科学的視点から」を聴きました。前半は阿比留睦美先生による音楽療法の話。パーキンソン病、片麻痺や失調による歩行障害に対し、音楽療法を用いた歩行訓練の動画を見ることが出来ました。音楽療法について書かれた論文を読む機会はありますが、実際にどうやっているかは知らなかったので、面白かったです。運動性失語に対しての melodic introduction therapyでは、言葉は喋れなくてもメロディーをつけて歌えば言葉が出てきたり、その他半側空間無視の患者の健側に鉄琴で音階を叩かせ、無視側に誘導して注意を向けさせる方法など、興味深い話がいくつもあって引き込まれました。その後の三重大学の佐藤正之先生の講演は、認知症と音楽療法についてでした。色々な論文の紹介は出てくるのですが、認知症患者に実際どのようにして音楽療法を行っているかの説明がほとんどなく、残念ながらイメージが湧きませんでした。
これらの講演を聴いてからはポスターを見に行きました。ポスターは玉石混交という感じでしたが、一番面白かったのは、信州大学からの HPVワクチンの副作用の話。起立性低血圧を呈する症例があり、皮膚生検でも自律神経の障害を示唆する所見があるとのことでした。自己免疫性機序が想定されているようですが、抗nAChR受容体抗体は陰性らしいです。質疑応答では、「治癒した後も登校しなくなってしまう学生」の存在が問題視されていました。余談ですが、抗HPVワクチンは子宮頸がんだけを予防するわけではないので、演題にあった「子宮頸がんワクチン」という用語は使わないほうが良いと思いました。
それから講堂に戻り、偶然お会いした内原俊記先生と、jolt accentuationについての意見交換。
夜は、神経病理学の教授や先輩らと 4人でしずくに行きました。酒、肴とも最高でした。その日聴いた演題の情報交換をしたのですが、「髄液の産生・吸収機構の新しい概念と特発性正常圧水頭症の診断・治療の進歩」というシンポジウムが素晴らしかったと聞きました。髄液が脈絡叢で産生されてくも膜顆粒で吸収されるという従来の概念は、髄液の循環の中でも高圧時にバックアップ的に働く系らしく、メインではないそうです。メインの系としては、他にいくつかの仮説が唱えられています。学生には理解しやすい従来の説を教えているけど、試験には出せないという話がされたと聞いて、聴衆の間で話題になっていたらしいです。相当インパクトのある講演だったらしいので、もし今回の学会が終わった後、講演の動画が視聴可能になったら、是非見ておきたいです。それ以外には、ANCA関連肥厚性硬膜炎の話が面白かったと聞きました。
24時まで飲んだ後、先輩と 2人で「夜の博多スタディー」と称して午前 4時まで中洲を練り歩きました (^^;
5月22日 (木)
午前 8時から「私シリーズ 私と神経症候学」で、田代先生の話でした。以前このブログで紹介した「神経症候学の夢を追いつづけて」という本とほぼ同じ内容の話でした。午前 9時からは症候学や電気生理診断学で有名な柴崎浩先生の講演を聴きました。
それが終わってからは、博多港から水上バスによって天神に移動し、そこから柳橋連合市場に移動して食事。海の幸を食べましたが、思ったほどではありませんでした。また、市場で土産を買おうと思ったのですが、生鮮品が多く断念。学会場に戻りました。
学会場に戻ってからは、ポスター発表を見ました。外勤先の部長を見かけて、一緒に空港に向かいました。空港で焼酎をたっぷり飲んでから、19時過ぎの飛行機で東京に戻りました。