医療崩壊を扱った番組

By , 2007年6月29日 9:06 PM

6月27日に、医療崩壊に関する番組を2つ放映していたので見ました。

最初の番組は、生活ほっとモーニングです。録画して見ましたが、しっかりした番組を作ったNHKを評価したいと思います。

救急車の搬送先が見つからない。ある日の記録。70歳代男性。脳梗塞疑い。しかし、満床、専門外などで18の病院を断られ、40km離れた病院に2時間半後に受け入れられた。

その背景には医師不足がある。東金病院では、10人いた内科医が3人になってしまった。朝9時の診察が夜10時までかかる。5-6時間待ちの患者も現れた。

3人のうち1人は院長である。院長「何度も逃げ出したいと思った」と語る。

成東病院でも11人いた内科医が全員いなくなり、内科を閉めた。

医療法では患者16人に医師1人が必要だが、常勤医でそれを満たしている病院は全国で36%しかない。大学病院の医師不足が大きな原因ではないか?そのため、大学病院から地方に派遣されていた医師が引き上げられている。

千葉県の山武地域をモデルとする。ここは東京から電車で1時間半。住民一人当たりの医師数は全国の半分以下という医療過疎地域。成東病院と東金病院という中心的な病院がある。

もともと3年前に成東病院には11人の医師がいたが、大学病院から2人引き上げられ、2人開業、1人が体力の限界で退職。残ったのは6人の医師。院長は医師を求めたが、どこにも派遣してくれる大学病院はなく、残った6人が限界となり、内科を休診した。

何度も成東病院に命を救って貰った患者が、泣きながらインタビューに答える。

元々、夜間救急は成東病院が15日/月、東金病院が7日/月の救急を受けて入れていたが、成東病院が救急の受け入れをやめた。東金病院も200床に10人の医師がいたが、3人となってしまった。東金病院も1日/月しか救急対応できなくなった。

東金病院当直の取材。当直の医師は、朝9時から勤務していたが、夜間当直として、救急車、直接来院した患者、病棟の業務をこなす。検査も必要なため、検査技師が必要で、看護師などの多くのスタッフも確保しておかないといけない。この日、救急車10人、自家用車25人の患者が来院。院長が応援にかけつける。このように、月1日の当直には院長もかけつけて対応しないといけない。当直医は、当直明けもそのまま通常業務をこなす。これは、全国の救急医療の現場では珍しいことではない。

コメンテーター「医師といえども人間ですからねぇ」「それだけハードだからお辞めになるんでしょうからねぇ」

伊関氏が語る。「いくら病院という建物があっても、働く医師がいなければ箱でしかない。医療の高度化、患者へのインフォームドコンセント・・・。医師の仕事が非常に昔に比べて増えた。書かなきゃいけない書類も昔はほとんどなかったが、今はものすごくいっぱいある。その一方で、タクシー代わりに救急車を使う患者、軽い症状で夜診療を受ける。医師の立場にすれば、何でこんなことをしなければならないんだ。それで寝れない。医師は一晩中起きていて、次の日もそのまま仕事する。連続32,36時間勤務する医師もたくさんいる。」

夜間当直した勤務医が、連続して勤務する割合が9割。残りの1割の中には、2-3時間仮眠して勤務する医師が含まれる。医師の6割以上が月に3回以上の当直をしている。

伊関氏「事故のリスクが高くなるし、事故をすれば訴訟になるし、場合になれば逮捕される。だからやってられないとなる。」

その後、成東病院に多くの患者が戻ってきた。7人の内科医が診療にあたることになったからだ。その中には、元大学教授大藤医師もいた。大藤医師が助教授時代に開発した肝臓癌の治療は、現在の世界水準となっている。

大藤氏「自分が一生かけてやったことで、そこが破滅的になっていくのを黙ってみていることはできない。」

大藤氏は、成東病院で肝臓癌の治療研究を始めた。

医師「まず始めることが50%、続けることが50%の成功なのだから」

大藤氏の元に、多くの医師が集まった。

一方、東金病院でも再生に向けた動きが始まった。近隣の診療所との連携である。連携を先進的に取り入れたケースを勉強にしに来た医師など4人が集まった。

伊関氏「働く人が働きやすい職場を作るのは大事だと思います」

一方、患者側も何かできないかと立ち上がった。患者の側も医師が働きやすい環境を作ることで、医師に根付いて貰おうかという試みである。患者「Dr.が魅力を感じる地域になったもの勝ち。そのDr.にとって魅力を感じる地域が、私たちにとってもハッピーな医療を作れるような地域だと思いますので・・・。」

コメンテーター「人間同士は信頼関係ですからね。先生の方も信頼してくださるし、患者の方も信頼してお任せする。そういう間柄ができないと、自分の体をお任せできないですよね。」

全国でも似た動きがあり、県立柏原病院でのコンビニ受診を控えるような住民の動きを紹介。

医療崩壊から地域が救われた例が示されています。この中で、大藤医師の元に多くの医師が集まったのは教訓的です。優れた指導医の元には医師が集まるということです。こうした医師を繋ぎ止められなかった舞鶴市民病院と対照的ですね。東京もこれに近いこともいずれ明らかになるでしょう。

 その夜には、報道ステーションでも医療崩壊を扱っていました。古舘伊知郎が、当直を取材。

古館「選挙の投票を考えるときに、年金の問題の他に、医療費の抑制、医療の負担の問題。地方の医師不足の問題。公立病院が減っていく問題。これは全て一つでくくられる大問題だと思うんですが。私も取材に行ってきました。岩手県の山田町に行ってきて、その病院で奮闘する医師について、現場を見てきました。」

岩手県立山田病院。この病院に勤務する平泉医師。この病院に常勤医は3人しかいないが、外来患者は一日平均200人。外来の診察を終えると病棟患者の元へ。看護師からの緊急の呼び出しが頻繁に入る。当直は月に10回にも及び、翌朝も診察は続く。

平泉医師「何時間勤務かって?もう忘れてしまったね。40何時間かな。48とか。」

週に3回は手術を行う。腹腔鏡手術は通常は数人で行う手術だが、平泉医師は一人で行う。

平泉医師「一人でもやっていかないと成り立たないというのは本当にある。一人で出来なければ手術をあきらめなければいけない。」

平泉医師は、ハーバード大学で癌の研究を行っていたことがある。

平泉医師「医療には最先端もあるが、最前線もある。」

訪問診療、週2回。まさに医療の最前線だ。今年の訪問件数は年1000件に達する見込みだ。

山田病院には常勤医が7人いたが、開業したり、都会に戻ったりで3人になった。一人の医師への負担はますます重くなる。悪循環だ。

当直の風景。午後9時40分。この夜6人目の患者。小学生喘息。

平泉医師「夜喘息になっても熱を出した子供がいても朝まで待たなくてはいけない。金曜日であれば月曜日まで待たなくてはいけない。地域病院がなくなってしまうと地域の医療は非常に水準が低くなる。いまの山田病院は本当に”限界病院”で、職員の献身的な精神、気持ちが医療の支えになっているわけですけれども、どこまでそれが続くと言われれば、少なくとも今月は続くことになってますけれども、来月(常勤医3人の)誰かが倒れたりすると立ち行かなくなるかもしれない。」

この”限界病院”にまだ医師は来ない。仮眠の間も枕元には携帯が-。

古館「一番行って良かったなっていうのは、都会の中でも人によって色んな違いがあることがわかっているつもりでも、何となく一括りで都会の利便性みたいなものがしみついている。本当に両方が我慢していらっしゃるんですよね。ちなみに、取材した翌日から先生は2日間休まれたんですよ。尿路結石で2日間入院されています。当然選挙公約として各党が医師不足対策を掲げていますが、政府は6つの病院に7人の医師を派遣することになっています。派遣期間が3-6ヶ月なんですね。後は頑張ってくれというニュアンスがあるんです。」

今度の参議院選挙は、医療崩壊が大きなテーマになりそうな雰囲気です。

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