CRMCC
JAMA neurologyに勉強になる症例が報告されていました (2014.9.29 published online)。
A case of early-onset rapidly progressive dementia
症例は 62歳弾性で、2ヶ月間で急速に認知機能低下が進行しました。最終的に 3年後に亡くなりました。病理学的には、大脳、小脳、橋に様々な大きさの多発壊死巣があり、多くは著明な石灰化を伴っていました。壊死巣は白質に多かったものの、灰白質にも病変はありました。また、全ての壊死巣で微小血管病変が目立ちました。Tau、β-アミロイド、α-シヌクレインは免疫染色で陰性でした。
本症例の特徴は下記の 6点になります。
1. 早期発症 (early-onset)
2. 急速な進行
3. 頭部MRIで石灰化と造影効果 (この症例では頸髄MRIや胸髄MRIでも造影効果あり)
4. 病理所見では、感染や炎症、血管炎の所見がなく、微小血管の肥厚がある。
5. 検査所見 (採血、髄液など) で異常がない
6. 全身性の症状がない
著者らが考えた鑑別診断は次の通りでした。
Brain calcinosis syndrome (BCS) (石灰化は基底核優位)
・Familial BCS with calcium, phosphorus, and parathyroid hormone (PTH) metabolism abnormalities: familial isolated hypoparathyroidism, autoimmune polyglandular syndrome type I, pseudohypoparathyroidism→カルシウム、リン、PTH代謝異常なく否定的
・Familial BCS without calcium, phosphorus, and PTH metabolism abnormalities: Aicardi-Coutieres syndrome, dihydropteridine reductase deficiency, Cockayne syndrome→発症年齢、民族性、臨床所見より否定的
・Fahr disease: 脊髄病変の存在や中枢神経系での造影効果より否定的
Diffuse neurofibrillary tangles with calcification→病理所見で neurofibrillary tangleがなかったので考えにくい
Cerebroretinal microangiopathy with calcifications and cysts (CRMCC) (≒Coats plus syndrome, leukoencephalopathy with calcifications and cysts (LCC))→本症例に合致
頭蓋内の石灰化を伴う早発性認知機能障害は、このように鑑別を進めて行くと良いのですね。Fahr病や diffuse neurofibrillary tangles with calcificationはたまに疑うことがありますが、CRMCCという疾患概念はこの論文で初めて知りました。
CRMCCは稀な疾患であり、病因や発症頻度はよくわかっていません。常染色体劣性遺伝という意見もありますが、確実なものではないようです。ただし、2012年、晩期発症型の CRMCC 3名のうち 1名で、CTC1 (conserved telomere maintenance component 1) 遺伝子の変異が報告されています。本症のように脳内広範に石灰化が散在する所見にはインパクトがあるので、そのような画像を見たらこの疾患が鑑別として思い浮かぶようにしておきたいところです。