動物に「うつ」はあるのか
「動物に「うつ」はあるのか 「心の病」がなくなる日 (加藤忠文著, PHP新書)」を読み終えました。このようなタイトルがついていますが、著者は「動物にうつはあるのか」を議論するための土台として、「精神疾患とは何か」あるいは「どうやって動物が精神疾患であることを判断するのか」といった問いを投げかけつつ、ヒトの精神疾患に話を進めていきます。「精神疾患の診断はどのようにくだされているのか」「現在どのような戦略で研究が行なわれているのか」など知りたい方にとって、本書はお勧めだと思います。
著者は、臨床医でありかつ基礎研究者であり、臨床研究と基礎研究の違いをわかりやすく述べていました。広報についても両者は違うようで、これが基礎系の科学ニュースを見て「ちょっと盛りすぎだろ」と感じる私にとって、理解しやすい説明となっていたので、引用しておきます。
雑誌投稿だけではなく、一般向けの発表のときの説明のやり方も、臨床研究と基礎研究では違うと感じます。臨床研究の成果というのは、なにしろ直接、患者さんに関係があるだけに、とにかく過大なことをいわないよう、最大限の注意を払って発表することになります。
たとえば、臨床サンプルを使って、この分子がこの治療法の開発に役立ちそうだというときでも、「治療法解明に一歩前進」とか、「新たな治療法の開発のめどが立った」などというと、ひょっとしたら患者さんたちにありもしない希望をもたせてしまうかもしれない、何か迷惑がかかるかもしれない、とブレーキが強く働くのです。ですから、まだその手前だということを強調するなど、むしろ非常に自制的に発表します。
ところが、基礎研究の場合は、基本的にまだ患者さんから遠いというのが前提で、そのまま発表したのでは、一般の人にとっては世の中の何に関係があるのかすらまったくわからない、ということになります。そのため、その研究成果が将来的にどのように世の中の役に立っていくのかを、あえて発表に入れたほうがいいわけです。
これを臨床研究側から見ると、「まだまだ臨床には遠い完全な基礎研究なのに、いかにも患者さんにすぐ役立つような言い方をして、ひどいなぁ」となるときもあります。しかし、それも、お互いの立場を考えないといけないし、メディアの方々にも、臨床研究の発想と基礎研究の発想の違いを知ったうえで報道していただけるとありがたいと思います。