神経学講義

By , 2007年8月13日 9:46 PM

「シャルコー 神経学講義 (Christopher G. Goetz編著, 加我牧子・鈴木文晴監訳、白揚舎)」を読み終えました。

シャルコーの業績はこちらをご覧ください。
神経学の歴史2-40. シャルコーがサルペトリエール病院にやってきた。-
神経学の歴史2-41. シャルコーの業績その1。多発性硬化症の発見-
神経学の歴史2-42. シャルコーの業績その2。筋萎縮性側索硬化症の発見-

シャルコーは、シャルコー・マリー・トゥース病に名を残し、また筋萎縮性側索硬化症はシャルコー病と呼ばれます。彼は多発性硬化症を発見し、パーキンソン病を再評価しました。彼は臨床と病理を対比し、いくつもの病気の本態を明らかにしました。また、喘息患者の痰の中に見られる「シャルコー・ライデン結晶」にも名を残しています。

シャルコーは、デジェリーヌ、ババンスキー、フロイトらの師でもあります。教育に情熱をかけていたことも知られています。

彼は金曜日に講義を行い、これは「金曜講義」として有名です。一方、臨床教育としては、火曜日に実際の診察を公開し、「火曜講義」としました。

「火曜講義」については、ババンスキーの序文が参考になります。

実際,金曜講義の質はコレージュ・ド・フランスと同じだと言える。主題はすでに確立した科学ではなく,これから発展していく科学である。したがってそうした講義は,シャルコー教授がすでに長い間全身全霊をかけて捧げてきた研究の延長であり,その題材の多くはすでに出版されている。

一方,火曜日の講義はサルペトリエール病院での教授業務に新たに付け加えられたもので,金曜講義とは根本的に異なった構成であった。シャルコー教授自身が述べているように,『毎回の講義は,毎日当たり前のように実践している神経学がいか驚きに満ち,複雑であるかを強調したもの』である。講義で提示されるのは,サルペトリエール病院の外来に診察を受けにやってきた患者である。教授はその場で初めて診察し,診断と予後,苦痛を除く治療法を確定しようとする。さまざまな疑問を1つ1つ解明していく仕事の様子を,聴講生の目の前で見せるのである。症例によっては,患者の姿,話し方,あるいは歩きぶりを一目見ただけで診断を下してしまった。患者の症状と病気の進行状態を精力的に分析しないと適切な診断ができない症例もあった。細部にわたって長時間詳細に診察をしても,的確な診断にたどりつけないこともあった。このようにして,聴講生は臨床医の診察法を学べたのである。

詳しくは存じませんが、多くの病院の神経内科の教授回診(科長回診)が火曜日に行われるのは、この名残なのでしょうか。

本書には、火曜講義の中から抜粋して、8講義収載されています。それぞれ、実際の講義を補足する解説が充実しています。

[目次]
はじめに
[J. バビンスキーによる序]「火曜講義」出版によせて
火曜講義の背景

1 梅毒,運動失調,顔面神経麻痺
3疾患の相互関係について
2 歩行自動症
てんかんの診断の1例
3 ジル・ド・ラ・トゥーレット症候群
けいれん性チックと汚言症の小児
4 シデナム舞踏病とハンチントン舞踏病
2つの症例を比較する
5 ヒステリー性てんかん
講堂でけいれん発作を起こす若い女性
6 パーキンソン病
振戦を伴わない1例
7 フリードライヒ病
失調を呈する若い男性の2例
8 シャルコー病
筋萎縮性側索硬化症-進行性球麻痺の1例

訳者あとがき
事項索引
人名索引

いずれもシャルコーの優れた観察眼を感じます。もちろん現代の神経学からみて誤っていることも多々ありますが、緻密な観察を基に、論理的に構築された一つの学問体系です。

現代でも治療困難な神経疾患はありますが、このような疾患に対する姿勢として、シャルコーは筋萎縮性側索硬化症の講義で、次のように述べています。

悲しいことながら事実です。しかしながら,医師にとって悲しいか悲しくないかは問題ではありません。真実こそが問題なのです。患者には最後まで希望をもたせて生活させましょう。それがよいのです。それが人間らしい,最良の方法です。しかしこの患者と同じようにするのが医師の任務でしょうか?私たちは,現在では治療不能な重症の神経疾患ばかりを無意味に研究している,と非難されることがあります。それが何の役に立つのだ,それが本当の医学なのかと世間から疑問を呈されるほどです。この種の考え方は,医学は『癒しの技術』であるという前提に立っています。しかしみなさんは次のような言い方を想像できますか?『私は医師です。それは確かです。しかし,不幸なことに,あなたには何もしてあげられません。わかっているんです!』諸君,違います。それでは責任を果たしたことにならない。批判をものともせずに観察を続けましょう。研究を続けましょう。これこそが,発見をするための最良の方法です。そしておそらく,努力することによって,将来私たちがこうした患者に下す判決は,今日下さざるを得なかった判決と同じではなくなるでしょう。

そのシャルコーも、ヒステリー研究の分野では行き詰まりを見せていました。彼が得意とした臨床と病理の対比という手法で解決出来ない疾患ですね。一方で、彼はヒステリーと器質的疾患を鑑別するいくつかの方法に気付いていました。てんかん患者とヒステリー患者が同じ病棟に収容され、ヒステリー患者を多数診察せざるを得なかったため、シャルコーなりに研究していたのですね。

最近、「Neurology Reference series, Psychogenic movement disorders (Mark Hallet, Stanley Fahn, Joseph Jankovic, Anthony E. Lang, C. Robert Cloninger, Stuart C. Yudofsky著, Lippincott Williams Wilkins)」という本を購入しましたが、ヒステリーの鑑別法が多数紹介されていて勉強になります。現代でもヒステリーの患者は多く、しばしば診断に迷います。器質的疾患と区別がつかないことが多々あります。一方で、方法を知っていれば鑑別できる場合もあります。

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