更年期障害

By , 2016年5月5日 9:18 AM

とあるクリニックで外来をしていたら、患者さんから更年期障害について相談を受けました。突然発汗してしまい、困っているのだそうです。婦人科へのアクセスの悪い地域だったので、何か自分でできることはないか、少し調べてみると、オープンアクセスとなっている NEJMの総説がとてもよくまとまっていました。

Management of Menopausal Symptoms

・周閉経期 (menopausal transition) は 40歳代後半から始まり、約 4年間続く。閉経年齢の中央値は 51歳であり、喫煙者では約 2年間早くなる。周閉経期の初期は、エストロゲンは通常正常からやや高値で、FSHは上昇し始めるが概ね正常範囲内である。周閉経期が進むにつれて、ホルモンレベルは変化するが、エストロゲンは著明に低下し、FSHは上昇する。閉経すると排卵は起きなくなる。卵巣は、エストラジオールやプロゲステロンを産生しなくなるが、テストステロンの産生は続く。

・閉経期の女性は様々な症状を訴えるが、年齢や交絡因子で調整すると、血管運動症状 (vasomotor symptoms, ホットフラッシュや夜間の発汗) と膣症状 (vaginal symptoms)、睡眠障害のみである。記憶障害や倦怠感は、ホットフラッシュや睡眠障害によるものかもしれない。

・ホットフラッシュは、顔面や頸部、胸部を中心とした突然のほてりである。持続時間にばらつきはあるが、平均 4分程度である。しばしばおびただしい発汗と、それに引き続く寒気がある。ホットフラッシュは、周閉経期の後期に多く、約 65%の女性にみられる。中国人や日本人は白人よりも少ない。

・ほとんどの女性でホットフラッシュは一過性である。30~50%の女性では、数ヶ月以内に改善し、85~90%の女性では、4~5年で解決する。しかし、10~15%の女性では、なぜか閉経後も長年続く。ホットフラッシュのある女性とない女性では、内因性エストロゲンレベルに差はない。FSHの高値のみがほてりと関係していたという研究がある。

・膣症状 (乾燥、違和感、そう痒感、性交時痛) は、閉経後初期の約 30%、後期の 47%の女性にみられる。ホットフラッシュとは異なり、持続するか、年齢とともに悪化する。

・40歳代後半から 50歳代半ばの典型的な血管運動症状であれば、ほかに疑われるような原因がないかぎり、検査は不要である。注意深く問診し、アルコール摂取、カルチノイド、ダンピング症候群、甲状腺機能亢進症、麻薬離脱、褐色細胞腫、薬物 (硝酸薬、ナイアシン、GnRHアゴニスト、抗エストロゲン薬) などの除外を行う。FSHや LHは周閉経期の間、閉経前の正常範囲内に収まるが、ホルモン測定をルーチンに行うべきではない。

・複数の無作為研究で、エストロゲンはホットフラッシュの頻度や重症度を改善した。一般的に頻度は 80~95%減少する。どのような投与法でも有効である。効果は用量依存であるが、少量のエストロゲンでもしばしば有効である。効果は通常量のエストロゲン (経口エストロゲン 1 mg/dayないしその相当量) を開始して 4週間以内に見られる。エストロゲンあるいはプロゲスチンとの併用療法で脳卒中は 40%増える。直接比較はされていないが、エストロゲン+プロゲスチンの併用療法で、冠動脈疾患、肺塞栓症、乳癌はより増加するようだ。エストロゲンは、冠動脈疾患や乳癌、子宮がん、静脈血栓症の既往があったりハイリスクである患者、あるいは活動性肝疾患の患者では避けるべきである。経口薬より貼り薬の方が、静脈血栓症のリスクは低下するかもしれないが、はっきりとはわかっていない。

・エストロゲン+プロゲステロンの方が、エストロゲン単剤より有害事象が増えるかもしれない。しかし、エストロゲンを単剤で投与すると、有意に子宮過形成や子宮癌が増加する。プロゲスチンの少量投与は、子宮内膜を保護する。プロゲスチン単剤では副作用がしばしばみられる。

・SSRIや SNRIも効果があるが、薬剤や臨床試験での被験者の層によりホットフラッシュへの治療成績は異なる。パロキセチンで中等度の効果がある。乳癌サバイバーで治療効果が高い。抗エストロゲン薬の使用やうつの合併頻度が高いことなどが、治療効果が高いことの理由として推測されている。

・ガバペンチンも、わずかにであるが、乳癌の治療歴有無に関わらずホットフラッシュに効果がある。しかし副作用が出やすい。

・αアドレナリン作動薬であるクロニジンは、ホットフラッシュに対して効果がないか、あってもわずかである。

・膣症状にはエストロゲンがとても効果的であり、推奨される用量、投与頻度を守る限りは、プロゲスチンの追加は不要である。

その他、知人の医師から、産婦人科医によるわかりやすい解説も教えて頂きました。

「更年期障害」の診方

あと、BMJの総説も読みやすかったです。

Hormone replacement therapy.

これらの総説を読んだ結論としては、下記になります。

・診断は比較的容易で、通常はホルモン検査も不要。

・ホットフラッシュは一過性のことがほとんどで、治療の副作用を考えると、軽度であればそのまま経過観察でよい。

・ホットフラッシュの治療を行う場合、エストロゲンが良く効くが、禁忌がないことを確認する必要がある。また、子宮癌や乳癌等のリスクには留意する必要がある。子宮がある女性患者にエストロゲン療法を行うときは、子宮内膜癌のリスクを減らすため、プロゲスチンを併用するべき (←BMJ論文の表現)。ホルモン療法を行う場合、ダラダラと長期間続けない。ホルモン療法が行えない場合、SSRIは治療オプションになり、特に乳癌の既往がある場合に有効である。

ということで、ホルモン療法を行うならば、子宮内膜癌や乳癌のスクリーニングが可能な専門家に御願いしておいたほうが良さそうですね。自分で治療することはないと思いますが、半分近くの女性は、ホットフラッシュが数ヶ月で改善するとか、調べてみて色々と勉強になりました。

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