どこまでやるか
ある主訴を抱えた患者が来院したとき・・・。
外来でどこまでの検査をするか、ひとまず悩みます。学会報告レベルの稀な病気まで見逃さないように?そんなことは多分出来ません。でも、万に一つの病気を見抜けなかったことが訴訟になったりします。
そこは、患者と相談して「こういう可能性を考えていて、今日の時点で出来ることはここまで。」と丁寧に話をします。昨日の外来では、看護師に「先生A型でしょ?」と聞かれました。O型ですし、非常にずさんな生活を送っています。部屋なんて廃墟と化していて、他人に見せられないくらい。
でも、丁寧に説明しても、みんながみんな理解出来るとは限りません。
そんな悩みは私だけかと思っていたら、いつもお世話になっているブログで、その問題が議論されていました。
日々是よろずER診療-ただの腸炎のはずが?(2)-
患者が、腹痛を訴えて、時間外診療を受診します。 時間外診療の日常のありふれた光景です。 私たち医療者は、そのありふれた症状の中から、重篤な経過をとりそうな患者かそうでない患者を的確に選別することが期待されています。それがいかに難しいことか! この難しさを、私たち医療者は、もっと社会に伝える必要があると私は常々思っています。 そこで今回のエントリーは、そのことを主テーマに症例を提示します。この難しさを、理解していない人たちは、 人間がもともと認知の歪として持ち合わせている「後知恵バイアス」という歪に基づいて、ある医療の結果が出たことから、時間を遡って、
「あのとき、前医が
○○○を疑い、△△△をしていれば、 ・・・・・・予見可能性
×××という悪しき結果は、回避できたはずだ。 ・・・・・・・結果回避義務
ところが、前医はそれを行わなかった。
だから、前医には過失がある。」
という批判を、無神経に行ってしまいます。
この言い分は、法律上の過失認定で使われてるロジックで、医療過誤も法律に基づいて行われる以上、裁判官は、たとえ無理やりにでも、この型に、我々の診療を当てはめて、賠償を命じます。異論もあるでしょうが、「前医」の立場に立つことが多い現場の人間の一人として、私は少なくともそう感じています。
一般に、私たち医療者が真摯に考えれば考えるほど、とほうもない数の予見可能性が生じしてしまいます。
例えば、腹痛の女性を、アトランダムに予見可能性を考えてみると・・・・・
ウイルス性腸炎、回腸末端炎、急性虫垂炎、虫垂癌、腸結核、帯状疱疹、大腿ヘルニア、消化管穿孔、悪性リンパ腫、大腸癌、小腸潰瘍、クローン病、O-157による細菌性腸炎、カンピロバクター腸炎、エルシニア腸炎、膀胱炎、腎盂腎炎、アレルギー性腸炎、卵巣出血、月経痛、子宮外妊娠、正常妊娠、卵巣頚捻転、OHSS、腎動脈瘤、腸骨動脈瘤、大動脈解離、腹部大動脈瘤、腹部アンギーナ、上腸間膜動脈閉塞、上腸間膜動脈症候群、スキルス胃がん、膵炎、脾動脈瘤、胃潰瘍、十二指腸潰瘍、大腸癌、過敏性腸症候群、便秘、尿管結石、急性冠症候群、うつ病、一過性直腸痛、糖尿病性ケトアシドーシス、転換性障害、鉛中毒、砒素中毒、家族性地中海熱、ポルフィリア、サラセミア、FHCS、PID、胆石発作、胆のう炎、肝癌破裂、腹部外傷(DV)、遊離胆嚢の捻転、総胆管結石、尿膜管遺残、大網捻転、腹直筋血腫、内ヘルニアの絞扼性イレウス、腸管異物、膣異物、痔核、胃アニサキス・・・・・・いかがでしょうか? 事前確率を考慮せずにランダム挙げるとこんな感じです。きりがありません。
はたして、そのすべての予見可能性に、対応することが可能でしょうか?
まったくその通りだと思います。いつも悩んでいる問題です。結局のところ、どうやったってリスクを回避出来ないのだから、臨床をすることは、リスクを背負うことなのだと思います。
このブログの面白い記事に下記のものもあるので、読んでみてください。
日々是よろずER診療-合併症を算数する(続編)-
合併症を発症する確率がpである検査を、1/p回行った場合、63%の確率で、少なくとも一回は合併症に遭遇する。
(中略)
合併症を発症する確率がpである検査を、5/p回行った場合、
99%の確率で、少なくとも一回は合併症に遭遇する。