脊髄の画像
Genoaで開かれた European Journal Neuroradiologyで聞いた報告で、面白かった話があったので、紹介します。
早朝 7:30-8:45に開かれた、「Reference Course- The spine」というコース。何名かの講師によるレクチャーでした。
J van Goethemは、脊髄画像の Reviewを発表しました。基本的な話でしたが、勉強になりました。「Degenerative disorder : classification issues」と題されたもので、椎体の変性やヘルニアのグレーディングなどについて、わかりやすく Lectureしてくれました。
Majada M Thurnherは、ウィーン医科大学の放射線科助教授 (Associate Proffesor of Radiology, Medical University of Vienna, Department of Radiology, Vienna, Austria) ですが、MRIの撮像法のうち、脊髄における Difusion Weighted Imaging (拡散強調像、以下 DWI)をテーマに発表しました。「Diffusion Weighted Imaging of spine」というタイトルです。
まず、脊髄をDWIで評価する際の問題点が示されました。
・Size of the spinal cord
脊髄のサイズが小さいという問題があります (small voxel sizes- reduction of SNR)。
・Surrounding bone structure
脊髄が囲まれているという問題があります (Surrounding bone structures- shimming problems, artifact on GE sequences, necessity of lipid suppression)。
・Motion
動きによるアーチファクトの影響です (spinal cord can move independently, swallowing, CSF pulsatile flow, breathing)。動きを補正する方法としていくつか知られています (Peripheral pulse unit triggering, Navigator-echo motion correction, Segmented signal averaging (serial motion artifact reduction technique [SMART]))。
以上の問題点を克服し、いくつかの疾患の DWIを纏めました。拡散テンソル画像 (DTI) についても触れていますが、内容が高度なので、DWIのみ紹介します。
まず、Spinal cord ischemiaです。急性脊髄症の 5-8%を占める疾患で、7-36%は原因が不明とされています。大動脈解離での cord ischemiaのリスクは 3-5%、大動脈手術での cord ischemiaのriskは 1-10%と考えられています。
MRIの T2強調画像では、髄内に高信号を認め、Sagittalでは pencil-like、axialでは snake eyesと表現される画像を呈します。供覧画像では、30時間後に ADC低下、DWI高信号が示されました。示した画像は、演者らが 2006年のNeuroradiologyに発表した画像です。
Spinal cord ischemiaを DWIで評価した報告は 30くらいあり、そのうち最も早期にDWIで描出されたのは 3時間でした。DWIの異常信号は、数時間で出現し、長くても 1週間以上続かないだろうと考えられています。
脊髄損傷で供覧した画像は、受傷 2時間後の画像ですが、既にADCが低下していました。脊髄損傷でのDWI撮像の支障となるのは血腫の存在です。
私が最も有用だと思ったのは、椎体骨折のDWIでの評価です。Baurらが 1998年の Radiologyに報告した論文では、25名の malignant fractures (悪性腫瘍の転移などでの骨折) では DWI高信号となり、38名の osteoporotic fractures (骨粗鬆症などでの骨折) のうち35名でDWIが低下していました。
それらのCriteriaの適応外となるのは次の通りです。発症2ヶ月を越えた骨折では、callus (仮骨) などにより DWI高信号となるため疑陽性となります。治療中の悪性の骨折は、壊死のため DWI低信号となり、偽陰性となります。また、骨硬化性の転移や純粋な外傷性骨折も適応外となります。
骨折が DWIでこのような動態を表すのは、cellularityが diffusivityに関与しており、cellularityが高まれば ADCが低下するためと考えられます。
この発表の後、「Functional Magnetic Resonance Imaging (F-MRI) of the Spinal Cord」と題した発表をSpyros S. Kolliasが行いました。彼は、チューリッヒ大学病院の先生のようです。運動や感覚刺激を与えて、脊髄の f-MRIを評価しました。脊髄のように狭いところの f-MRIはアーチファクトが入りやすくて大変だと思うのですが、画像が綺麗でびっくりしました。
彼らによると、脊髄の f-MRIが可能な条件 (Spinal fMRI feasibility studies) として、1.5-T MR system, phased array spinal coil, MSh GE EPI: TR/TE/FA 95/40ms/25, slice thickness axial plane 7.5mm, in plane resolution 1mm, flow compensation, spatial saturation pulses, image registration, SPMs: multiple linear regression analyses (p<0.5) を挙げていました。
手に対する刺激や運動と脊髄のレベルや髄内の部位の対比が非常に刺激的でした。