ヴァイオリン制作者と皮膚炎

By , 2008年1月20日 8:17 AM

以前、ヴァイオリン製作と喘息について書きました。ヴァイオリン制作者を襲う疾患として、今回は「アレルギー性接触性皮膚炎」を取り上げます。

Lieberman HD, et al. Allergic contact dermatitis to propolis in a violin maker. J Am Acad Dermatol. 46: S30-31, 2002

以下、学会の症例報告風に紹介します。論文タイトルの邦訳は、「ヴァイオリン制作者におけるプロポリスに対するアレルギー性接触性皮膚炎」です。プロポリスは、ミツバチが産生する蜜蝋です。

症例:69歳男性
既往歴:10年前 mycosis fungoides (菌状息肉症), 発症時期不詳 気道過敏性疾患。前者の治療に mechlorethamine HCL (nitrogen mustard), PUVA療法、UVB療法、局所ステロイド投与が行われたが、著変なかった。
家族歴:アトピーなし
生活歴:楽器修理工。木工やニス(ニスはプロポリスを含む)などを用いて仕上げる。また、弓の修理も行う。自分でもヴァイオリンを演奏する。
現病歴: 5年前から灼熱感、掻痒感のある皮疹が、眼瞼、左耳、前腕、手に出現した。ニューヨーク大学医療センターの皮膚科アレルギー部門に紹介される 1ヶ月前に皮膚炎の再燃に気づいた。局所ステロイド塗布や抗ヒスタミン薬内服での改善は認めなかった。
身体所見:上眼瞼、下眼瞼に鱗屑を伴った紅斑あり。前腕と手に境界明瞭で軽度の紅斑状、鱗状パッチあり。
検査所見:一般的なアレルゲン、その他(紫檀、黒檀、ペルナンブーコ、馬の毛)に対するパッチテストを施行し、コロホニウム、アビエチン酸、プロポリスで陽性。RAST法では、ラテックスと種々の樹は陰性。
診断:アレルギー性接触性皮膚炎
経過:抗原の隔離と cetirizine内服、中力価ステロイド局所投与にて軽快した。
考察
・コロホニウム (アビエチン酸の酸化物を含み、ニス、松のおがくず、ワニス、弓の毛に塗る松ヤニなどに存在する) に対するアレルギー性接触性皮膚炎の報告は良く知られているが、音楽家でプロポリスに対して発症した報告はほとんどない。
・従来、プロポリスに対するアレルギー性接触性皮膚炎は、養蜂家で見られることが多かったが、バイオ化粧品使用者で見られることが増えている。また、HIV陽性患者で、プロポリスを含むサプリメントを摂取していて、口唇炎、口内炎を起こした症例も報告されている。
・ヴァイオリニストや弦楽器制作者で難治性の慢性湿疹性皮膚炎を認める時は、プロポリスに対するアレルギー性接触性皮膚炎を鑑別に考える必要がある。

要約すると、上記の如くになります。弦楽器製作の工程を考えると、木の削りカスによる喘息症状も起こりますし、ニスなど化学物質に対するアレルギーも起こりますね。今回は、ニスに含まれるプロポリスに対するアレルギーが指摘されています (コロホニウムに対するアレルギーも検査では陽性)。指摘されると「なるほど」と思いますが、なかなか普通思い至らないものだと思います。

プロポリスに関しては、楽器演奏者以外にも、アレルギーの報告があることを初めて知りました。極めて稀なことなので、まずそういう患者を診ることはないでしょうが、知っておいて損はないかもしれませんね。まぁ、アレルギーなんて、何ででも起こるとも言えるのですが。

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