ジェノヴァ旅行(2007年9月15日〜9月26日)

ジェノヴァ第2日目

 朝7時半からのSpineのLecture。Lectureの開始時刻は午前7時30分。非常に早い。学生時代には朝9時の講義でも辛かったものだが、あまり苦にならないのは不思議な気分だ。時差ぼけのせいだろうか。

 Spineの Lectureは、Goethem (ベルギー)、Thurnher (オーストリア)、Kolias (スイス)による講演だった。Goethemの講演は、脊髄の画像診断における基本事項。Classification (解剖と機能)、Grading (椎間板と椎間関節) をわかりやすく解説していた。Thurnherの Lectureは脊髄の Diffusion MRIについて。椎体骨折が、良性のものか悪性腫瘍の転移によるものかの鑑別に Diffusionが有効であることは初めて聞いたが、面白かった。Koliasの Lectureは脊髄の functional MRIについて。頭部でもなかなか鮮明な画像が得られないのに、脊髄のような狭い空間で鮮明な画像が得られ、手の運動についての髄節性の知見も示されたのは驚きだった。

 このLectureの後、興味を引く演題がなかったので、お勉強はここまでにして、ボンジョルノ先生と遊びに出かけることにした。

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 Genoaでの最大の見所の一つにロッソ宮、ビアンコ宮がある。ロッソは赤、ビアンコは白という意味だ。ヴィノ・ロッソは赤ワイン、ヴィノ・ビアンコは白ワインとなる。中は美術館になっている。多くの絵画があり、宗教画が多い。その他、金貨などもあった。

 一番のお目当ては、Paganiniグッズが満載の部屋。Paganiniが愛用した名器「Canon」や、彼が楽器を修理に出したときに楽器職人が作ったCanonのコピーヴァイオリンがある。Canonは Paganiniコンクールに優勝すると弾かせて貰えるらしいのだが、見るからに楽器の状態が悪く、弾いていて壊れそうで緊張しそうだ。その他、楽譜なども展示されていた。

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 ビアンコ宮から屋上に上がると、景色が一望出来た。興ざめだったのは、フランス人の団体観光客と鉢合わせだったこと。狭いスペースが大量の人で溢れかえることとなったし、彼らはあまりマナーが良いとはいえなかった。ボンジョルノ先生が、「昔は団体旅行と言えば日本人だったけど、最近はフランス人なんだって」と蘊蓄を披露してくれた。

 午後からは、再び学会場へ。最初の発表は、「Idiopathic intracranial hypertention」についての発表だった。脳脊髄液の産生が増し、吸収が低下しているものの、水頭症は来していない病態で、100000人に1-2人存在するそうだ。妊娠年齢の肥満女性に多く、頭痛や拍動性耳鳴り、視覚障害を来し、乳頭浮腫があるものの他の神経所見はないらしい(ただし外転神経麻痺はあっても良い)。診断は脳脊髄圧が25mmH2Oを超えることを証明するのだそうだ。原因は不明である。MRIでは、強膜後部の平坦化や視神経周囲のくも膜下腔が拡張していることなどが所見らしいのだが、非常に読影が難しい印象を受けた。治療は髄液ドレナージ、ステロイド、LPシャントなど様々なものが試みられるらしい。頭の片隅に置いておくべき疾患であろうと思った。続いて、「Intracranial Hypotension」も扱われたが、これは神経内科医にはおなじみの病気だ。

 16時55分からは、Scirocco-libeccio roomで「The aging brain and neurodegenerative disease」というテーマでいくつかの発表が行われた。例えばカルフォルニア大学のVitaliらは、Semantic dementia (SD), Progressive Non-Fluent Aphasia (PNFA), Logopenic Progressive Apasia (LPA), Front-Temporal Dementia (FTD), Alzheimer Disease (AD)の脳のサイズを計測した。症例は全部で62例で、30例が病理診断を得られている。その結果、前頭葉は他の疾患と比較し、FTDで有意に低下が見られた。PNFAは左右どちらかの中前頭回、下前頭回、島での萎縮が目立った。SDでは側頭極が中等度〜高度に萎縮していた。LPAでは縁上回がやや萎縮していた。ADはどこというわけではなく、全体的に萎縮していた。

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 18時からは A. Osbornによる講義「Case based Review Session」。Osbornはおそらく世界一有名な神経放射線科医だ。放射線科医で彼女の名前を知らなかったら「モグリ」と言っても良いくらいだ。彼女がMRI画像を出題して、診断(正解ではなくても可能性が高いものを選べば良い)を考え、一問ずつ解説するという形式で講義が行われた。画像はそれぞれ「D.N.E.T. (脳腫瘍)」、「Wernicke脳症」「Tumefactive MS plaque」「Giant expanding perivascular space」「Susac syndrome」「Sylvian Fissure Epidermoid Cyst」「Cavernous Malformation」「Craniopharyngioma」「HIV Arteriopathy」「"Rosary-like" White Matter Lesions」「ラトケ嚢胞」「Cavernous Hemangioma of the Dura」「ヘロイン中毒」「ウエストナイル熱」だった。全然当たらなかったけれど、解説はわかりやすかった。

 Osbornは気さくな感じで、「みなさんが考えている間に時間があるわね。歌でも歌おうかしら」と鼻歌を歌ったり、会場の笑いを誘っていた。本当に愛すべきキャラクターだった。

 講義が終わってから、ボンジョルノ先生と食事に出かけた。現地の人達が普通に入る、こぢんまりした店で、食事とワインを楽しんだ。


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