午前 1時に、突然携帯電話が鳴った。眠い声で出ると、所属先の大学病院の医局長からで、以前担当した症例を学会で発表して欲しいということだった。現在アメリカにいて資料が手元にないこと、3時間後に起きてホテルを出ないといけないことを伝え、電話を切ったが、目が冴えて眠れなくなってしまった。何というタイミングの悪さだ。Oh, my gosh!
午前 4時にシャワーを浴びて、5時のバスに乗って空港に向かった。このホテルはホテルまで送迎バスを出してくれている。タクシーを呼ばなくて済むので、非常に便利だ。機長やスチュワーデスのコスチュームを着た人達も 1台のマイクロバスに纏めて乗っていた。航空会社御用達のホテルでもあるのだろうか?
空港に着いて、時間に余裕を持って自動チェックインをしようとしたが・・・「早すぎてできません」との案内。係員が来て、「これ明日の日付だよ?」と一言。確かに、航空券は翌日の日付になっていた。練馬のHISで契約したときの日付を見てみると、担当者が「9月2日」とメモしているし、航空券の領収書も 9月2日バーミンガム→ニューヨークとなっていた。私が、予約のとき「9月2日だと朝 7時の飛行機しかないけれど、9月3日の飛行機だともう少し遅いですか?」と聞いたので、担当者が混乱して間違った日付で航空券を予約してしまったのだろうか。何にせよ、航空券の日付を確認しなかったこちらのミスだ。
デルタ航空の受付で、日付を変更してくれるように頼むと、空席があったようで、$50で変更してくれて、事なきを得た。余裕を持って空港に行っていて、命拾いをした。そして乗り込んだ機内は空席だらけだった。
ラガーディア空港から、来たバスにそのまま乗って、Q48のバスで地下鉄 7番の 111th stationに移動しようかと思ったら、途中で降りそびれ、地下鉄 7番の終点 Flushing-Main駅まで連れて行かれてしまった。バスを降りてビックリ。まるで中国だ。看板は全て中国語、歩いている人も 9割くらい中国人だ。尖閣諸島の問題があるこの時期、日本人だとバレてはマズイ。中国人のフリをして、速やかに地下鉄に乗った。
地下鉄 7番で、42st駅に行き、そこから地下鉄 1番で 50st駅で下車。数日前にニューヨークで泊まったホテルが地下鉄 1番の駅の近くだったため、この地下鉄の駅は大体把握している。ホテル「メイフェア」に荷物を預けると、早速散策に出かけた。かなり強く雨が降っていて、バーミンガムで先輩がくれた折りたたみ傘が非常に役に立った。
まずは、モルガン美術館だ。あまり有名ではないかもしれないけれど、ここには、ナポレオンの手紙や、ドビュッシー、マーラー、シューベルトたちの自筆譜がいくつかあった。
続いて、エンパイアステートビルまで歩いた。何とかと煙は高いところに登りたがるという。屋上まで上がったものの、雨が強く、霧で景色がほとんど見えなかった。展望台では、みんなビショビショになりながら外に出ていて、それを見守る警備員もビショビショだった。高層階では風が強いため、横から殴りつけてくるのだ。結局、景色は何も見られず、雨に濡れるためだけに昇った結果に終わってしまった。
それから気を取り直して、”Museum of sex” といういかがわしい名前の博物館に行った。性をテーマにした博物館だ。来場者の多くはカップルで、ちょっと肩身の狭い思いをした。
この博物館の 1階はショップになっていて、アダルトグッズをたくさん売っていた。2階から上が展示スペースで、多方面から性を扱っていた。博物館の名前はまさにそのものという感じだが、オープン過ぎて卑猥な感じがあまりなかった。気になった人は、一度行ってみて欲しい。
刺激が強いものを見てからも、時差ボケには悩まされ、ホテルに戻って、1時間くらい仮眠を取った。ホテルはニューヨークに来て最初に泊まったホテルと同じくらいの値段だったけれど、そのホテルに比べるとかなり狭かった。こちらの方が場所が良いので、同じ価格なら多少条件は落ちるのだろう。WiFiも freeでは使えなかった。
20時からは「カルメン」を聴きにメトロポリタン・オペラへ。このオペラハウスは、数日前に訪れたリンカーン・センターの一角にある。少し早く出て、どこかレストランで食事を取ろうと思ったが、仮眠の寝覚めが悪く、二度寝してしまったおかげで、その時間はなかった。19時半くらいに会場について、鶏肉を挟んだパンを文字通り赤ワインで流し込んだ。
開始時間が来ると、さっそく前奏が始まった。「♪タッタカタカタカ タッタカタカタカ タッタカタカタカタ−」というお馴染みのメロディーだ。歯切れが良くて聴きやすい演奏だったけれど、その分あまりカルメンっぽくなかった。ここはラテンのノリでドンチャンやってほしいところ。前奏曲の後半も、もう少しオドロオドロシイ雰囲気があった方がよかった気がする。
演出はかなり派手で、エロスを強調していた。各幕の始まりではバレーダンサーがエロティックに踊り、淫靡さを醸し出していた。カルメンは、太ももまで露わにして男に絡み付けたり、押し倒したり押し倒されたりで、過去にない演出だった。アメリカっぽい演出だ。Museum of Sexより、よっぽど煽情的だった。
会場は超満員で、幕間では飲み物売り場とトイレの前は長蛇の列だった。休憩時間ギリギリまで並んで、やっとシャンパンが飲めた。シャンパンを飲むと、「オペラに来たなぁ〜」という実感が湧くのは、学習付けがされているせいかもしれない。
大盛り上がりで終幕を迎えた後、何度もカーテンコールがあった。カーテンコールも最後まで楽しんでから、地下鉄で帰った。