アメリカ旅行(2012年9月28日〜10月5日)

ニューヨーク第4日目

 9時起床。アメリカに来て最も深く眠れた。起きて将棋の携帯中継をつけると、羽生-渡辺の王座戦が千日手指し直しになっていた。羽生-渡辺戦は将棋界最高峰の戦いで、さらにいつも内容が素晴らしいので、より多くの対局が見られることになって嬉しかった。

 開館時間の10時 30分にニューヨーク近代美術館に着くと、既に長蛇の列ができていた。チケットを買って、手荷物を預けるまでに 30分かかった。若干脱水気味だったので、館内の喫茶店でコーヒーを飲んでから、5階に向かった。この美術館は、4, 5階が常設展になっていて、有名な絵が多く展示されている。しかし、5階は 1区画を残して全て閉鎖されていて、一番見たかったモネの「睡蓮」は見られなかった (海外の美術館の特別展に、一時的に貸し出したのだろうか?)。

 モネは池に浮かぶ蓮を長年にかけて描き続け、「睡蓮」と名付けられているのだけど、これには彼の病歴が刻み込まれている。それは「白内障」という眼科疾患だ。彼は白内障のため、眼球にあるレンズが濁って世界が黄色く見えていたので、一時期絵を黄色っぽく描いていた。ところが、白内障の手術を受けてからは、眼内レンズの影響で世界が青く見えるようになったので、絵を青色っぽく描くようになった。こうした事情を考えながら、絵を鑑賞できたら良かったのだけど、今回は叶わず。次回また訪れたい。

 この美術館はそれほど広くなく、そして朝の長蛇の列でわかるように、多くの観客がいたため、有名な絵の前は、東京の美術館のようにごった返していた。やはり絵の鑑賞はヨーロッパの美術館の方が適しているようだ。観客がフラッシュを焚いて写真を撮りまくっているのが非常に気になった。フラッシュを焚くと絵が痛むし、それに絵の写真が欲しいのだったら、下手な腕前で取るより、美術館のショップで写真集を買えば良いのに・・・。

 丁度美術館を見終わる頃、将棋の携帯中継で羽生-渡辺戦が終わった。これで羽生 2冠が王座を奪取。日本時間午前 9時に始まった対局は、午前 2時を過ぎていたらしい。棋譜からは羽生の執念が伝わってきた。ニューヨークにいながら、こんな名対局を見られるのだから、便利な時代になったものだ。

 美術館を出てから、一度ホテルに戻って荷物を置いた。そしてグランドセントラル駅からメトロノースに乗って、郊外のタカホーという駅に行った。数日前に飲んだバミュ先生から急遽召喚されたためだ。  駅前のパブ “The Tap House” では、先日に引き続いて酒をごちそうになった。ギネスを飲んで、後はジントニックを何杯も飲んだ。飲んだ後は、パブの隣のリカーストアでお土産用のカリフォルニアワインを選んだ。

concert

 酔っ払ってホテルに戻ってから、カーネギーホールへ。カーネギーはアメリカで最も有名なコンサートホールで、ここで成功すれば一人前の演奏家として認められる。「カーネギー、デビュー」という言葉があるくらいだ。ホールはあまり目立たない作りで、外装が工事中だった。中に入ると、カーネギーで演奏した巨匠たちのサイン入り写真が沢山飾ってあった。

 この日は、カーネギーホール 2012/2013演奏シーズンの最初の演奏会。チケットはソールド・アウトで大人気の公演だった。リカルド・ムーティ指揮、シカゴ交響楽団。Carmina Burana (Carl Orff) という曲は初めて聴いた。凄まじい迫力で、素晴らしい出来栄えだった。ムーティの手腕と言えるだろう。

 演奏会が終わってから、ニューヨーク最後の夜を満喫するため、ホテルの横にある “Piano bar” に行った。クラシック音楽ではなく、ピアノとサックスとボーカルによる演奏で、途中で何故かマラカスを渡されて振るはめになった。カウンター越しにいるバーテンダーはラテン系の女性で、臍の出た服を来て、腰をくねらせながらシェイカーを振っていて色っぽかった。バーテンダーから、どこから来たのかと問われたので、東京と答えると、周りの黒人たちに、「この人は東京から来たのよ」と知らせ、盛り上がった黒人たちから握手を求められたりした。バーテンダーは陽気に振る舞う一方、バーの片隅のテレビをつけていて、オバマとロムニーの大統領選での討論生中継を気にしていた。中継が終わってガッツポーズをしていたから、ロムニー派なのだろうか。

 カウンターで私の両隣には色っぽい女性が座っていて、片方は彼氏付きだった。独りで座っている女性はとても美人で、暇そうにしていて、何度か眼があった。話しかけようと思ったけれど、どうやって話しかければよいかわからないまま、時だけが過ぎた。すると 23時頃、初対面っぽい黒人の男性がその女性の隣に座り、”What’s your name?” と話しかけ始めた。女性は最初警戒していたけれど、徐々によく話すようになり、それを見て嫉妬に似た感情が自分の中に生まれるのがわかった。海外のバーで女性に話しかけるときは、”What’s your name?” から入ると良いらしい。良い勉強になった。その女性が店を出るタイミングに合わせて、24時頃ホテルに戻り、酔っ払ったまま心地よく眠りに落ちた。


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